【5】

その夜


エッグマンは 昼間子トカゲが入れたようなコーヒーを カフェ・エッグで再現しようと試みていた

エッグマンはあのコーヒーが欲しくなった いつでも飲めるようにしたかった

年を取ったとは思いたくないが 近頃疲れが残るようになってきた気がする
作業の殆どが機械化出来るとはいえ 基礎は自身で築かなくては始まらない

同じ効果のコーヒーがあれば 疲労回復促進と共に作業効率が上がって
あの忌々しいハリネズミを倒せるメカを造り出せるかも知れない

エッグマンの頭の中で 独特の超プラス思考が働く


しかし


何度も設定を変えて試したが とうとうあの香りと味を出すことは出来なかった

腹を立てて機械を蹴っても 自分の足が痛いだけ…



他に何か方法はないか 悩んだ末にエッグマンは思い付いた









奴を側に置いておくのが一番手っ取り早いのでは と























翌朝

連なる山の間から 日がその顔を出し切る前に
子トカゲは 悪い夢から覚めたように飛び起きた

そして物置の中を見まわして ここが眠る前に自分が居た場所だと確認すると
子トカゲは安心した様子で息をついた




その数時間後

物置の中の子トカゲへ
侍女風のロボットが扉越しに声を掛けてきた


「トカゲ様 起きていらっしゃいマスか?」


「な なぁに…?」


「エッグマン様が貴方をお呼びになっていマス
 お尋ねしたい事があるトのことデス.」








侍女風のロボットに連れられて 子トカゲはエッグマンの待つ書斎へ通された


部屋の中には エッグマンと子トカゲのふたりだけ


椅子に座っていたエッグマンが立ち上がり ゆっくりと子トカゲに歩み寄る









「ピュウバート と言ったな…」



「………」







昨日の様に何か怒られるのかと思い 子トカゲは身構えた
















「昨日は手荒なマネをしてすまなかった。
 あれほど美味いコーヒーは初めてだったので、
 つい嫉妬してしまったのじゃ。 許してくれ。」


「ぁ…ハイ…」







怖そうな中年男の意外に優しい対応で 子トカゲの緊張が少し緩む







エッグマンをよく知る者なら誰もが気味悪がりそうなこの行動

これがあのコーヒーを手に入れるための策だった

所詮相手は年端も行かぬ子供 優しく接するフリでもすれば 
簡単に手なずけられるだろうと エッグマンは謀っていたのだった


自分で言った言葉に尻がムズムズしつつ エッグマンは更に続けた



「キミは確か昨日 帰る所も、
 これから行く所も分からんと言っておったな?」


「…うん…」


「そこで一つ提案なんじゃが…
 いっそのこと ここに住んでみんか?」

「エ!?」

「正直言って、ワシはキミが入れたコーヒーが非常に気に入ったのじゃ!
 毎日飲みたいと思って昨晩例の機械で試してみたが、どうにも上手くいなくてなぁ…
 キミがここに住んでコーヒーを入れてくれればワシは美味いコーヒーが飲めるし
 キミも森で迷ったりして心細い思いをする心配は無くなるという一石二鳥のこの考え
 ……………………どうじゃな?」











突然の申し出に 子トカゲは少しとまどったが

答えはすぐに彼の中で出た
















「ボク なまえとコーヒーのコトしか わかんなかったから
 これからどうなるんだろうっておもってたんだ…












 いいよ、ボク ここにすむ!
 きのうあんなにオイシそうなかおしてくれて ウレシかった!
 ボクのダイスキなコーヒーは、コーヒーがスキなヒトに…
 よろこんでくれるヒトに飲んでほしい!」



「受けてくれるのか!」









エッグマンが予想した以上の快諾だった

もし断わられた時は脅してでも留まらせようと
隣の部屋に赤と青のロボットを待機させていたが
それは要らぬ手間に終わった






策の成功を喜び エッグマンは子トカゲと握手を交わす





「ありがとう 改めてキミを歓迎しよう。
 ワシはエッグマン、気軽に"エッグマン様"と呼んでくれ」

「エッグマンさま、だね わかった!」

「このハウスの事は追い追い侍女長に聞いておくようにな
 それではピュウバート君、早速1杯入れてもらえるかね?」

「うん!」






こうして少々騙され気味ながら 悪の天才科学者の下に
コーヒー好きのトカゲの子 ピュウバートが加わったのだった
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